「木乃伊の花嫁」(横溝正史)

超人的な由利先生の活躍

「木乃伊の花嫁」(横溝正史)
(「青い外套を着た女」)角川文庫

恩師鮎沢博士の娘・京子との
結婚を控えた鷲尾のもとに
脅迫状が届く。
「結婚は取りやめにしろ、
京子は木乃伊の花嫁だ」と。
鮎沢邸で行われた結婚式の最中、
花嫁の白無垢の裲襠に
真っ赤な血潮が滴る。
天井裏に何者かが潜んでいる…。

「木乃伊の花嫁」という仰々しくも
おどろおどろしいタイトルですが、
木乃伊が登場するわけではありません。
天井裏にあった死体は
見るも無惨に顔が焼けただれていて、
あたかも木乃伊のように
見えたというものです。

この死体は脅迫状を出した
緒方であると考えられました。
緒方は鷲尾と親友だったのですが、
京子を巡って仲違いし、
失踪していたのです。
彼は身をもって二人の結婚を
妨害したのですが、
事件はそれで終わりませんでした。

本作品の読みどころ①
身のまわりに起こる怪事件の恐怖

花嫁の裲襠の袖の
糸が抜かれてあったり、
櫛や簪が全て折られてあったりと、
鮎沢邸の結婚式当日には
妙な出来事が連続します。
曲者がすでに屋敷内に
侵入している気配が
静かに恐怖をかき立てます。
そして新郎・鷲尾に送られてきた
脅迫状と怪異な紙人形。
それが木乃伊をイメージさせる
醜悪なものだったのです。
おどろおどろしさが漲ります。

本作品の読みどころ②
もはや定番・顔のない死体

天井裏の死体は、
身元判別不能状態です。
つまり「顔のない死体」です。
ミステリーにおいて「顔のない死体」は
偽物や替え玉を意味します。
果たしてこの死体は
緒方なのか別の誰かなのか。
ここに作者・横溝は
巧妙に仕掛けを施してあるのです。

本作品の読みどころ③
意外な犯人・意外な動機

これも横溝作品の多くに
共通するところでしょう。
意外な人物が犯人であり、
その動機も意外でした。
最も登場人物の数は限定的であり、
早い段階で絞られてはくるのですが。

本作品の読みどころ④
超人的な由利先生

後半、鷲尾と京子が
信州で静養しているとき、
再び不可解な出来事が起こりますが、
絶妙なタイミングで現れ、
二人に近づく由利先生。
次の事件が起ころうとするとき、
またしても
神業的タイミングで現れる由利先生。
由利シリーズを知らない人が読むと、
犯人は由利先生ではないかと
思うくらいです。

④については読みどころというよりは
突っ込みどころと
言えなくもないのですが、
それも含めての面白さなのです。
超人的な由利先生の活躍を
楽しみましょう。

(2018.9.11)

engin akyurtによるPixabayからの画像

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